2017年07月24日

映画「彼女がその名を知らない鳥たち」


「凶悪」(13)、「日本で一番悪い奴ら」(16)

白石和彌監督がラブストーリーを撮ると聞いて自分

の耳を疑った人も多いと思うが、沼田まほかるの同名

ミステリー小説を映画化した本作は、深い愛が心の

奥底にまで染み入る、紛れもなく白石監督らしい

ラブストリーである。映画のキャッチにもなっているが、

とにかく出てくる奴が全員クズばかり。ヒロインの十和子

は働きもせず、15歳も年上の同居人、陣治の稼ぎで生活

をしてるのに、彼も毛嫌いし、8年前に別れた黒崎のことを

いまも忘れないクレーマー。陣治は陣治で十和子に異常なほ

ど執着していて尾行までする、金も地位もない不潔な男。

黒崎もまた一見スマートに見えるけれど、自分の出世や保身

のためなら利用するDV男だし、十和子が新たに関係を持つ

水島も端正なルックスで柔らかな物腰ながら性欲を満たす

ためだけに生きてるような薄ぺらな人間なのだ。そんな

最低にも程がある登場人物たちを、キャラクターとは真逆

の魅力的なキャストが体現しているのが本作のミソ。

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竹野内豊が芝居で見せる暴力に心を痛めながら黒崎を怪演し、

松坂桃李が口の上手いSEX依存症の男を嬉々として演じてる

のだから面白い。そう、ここに出てくるブレーキがきかない

人たちは、「凶悪」で山田孝之が演じた藤井や「日本で一番

悪い奴ら」で綾野剛が扮した諸星と同様の、間違いなく白石

ワールドの住人なのだ。中でも十和子と陣治の壊れっぷりには

目をみはるものがある。蒼井優がとんでもなく汚い言葉で

クレームの相手や陣治を毒づく最悪の女を狂ったように体現

しながら、一方では満たされない愛を求める彼女の別の一面

も共存させ、ギリギリ憎めないキャラを確立。阿部サダヲも

口の中で食べ物をクチャクチャクチャさせたり、食事をしな

がら靴下を脱いだりする下劣な陣治を、それでも愛すべき

人物として絶妙なバランスで成立させているから、観る者

もふたりを見放すことはできない。それこそ、白石監督が

食べ物のメニューを原作と変えてまでこだわった何度も映し

出される食事のシーンでは、不思議な引力で求め合う十和子

と陣治の危うい関係が生々しく伝わり、心がザワザワしてし

まうのだ。それだけに、ひとつの真実が分かり、それでだけ

に、ひとつの真実が分かり、それまでの出来事がすべて違っ

て見えてくるクライマックスではザワザワしていた心がさら

にかき乱されることに。あまりにも純粋で切ない愛がたち

上がるこの鮮やかなラストにも。狙いすました白石監督らし

さが見え隠れする。

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キネマ旬報8月上旬号記事からの抜粋です。

映画「彼女がその名を知らない鳥たち」の公開は

10月28日です。




posted by ドラ at 08:59| 東京 ☀| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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